Simple is the best


  PSOMMR 人類を滅ぼすPSOとは!?

ここでは、BBS内で大反響を受けた??「PSOMMR 人類を滅ぼすPSOとは!?」の
全編を載せているところです。
一読の価値は十二分に御座います。お読みください。


【題名】人類を滅ぼすPSOとは!?(前・後半)
【作者】ジオメトリ円
【日時】2001/05/31 03:17:00
より転載

この世には──
常識でははかれない様々な謎や超常現象が存在する──

ここ、講談社週刊少年マガジン編集部には
これらミステリ現象を科学的調査に基づく、
独自の切り口で解明しようとする特別班が組まれていた……

それを──マガジンミステリー調査班
(MAGAZIN MISTERY REPORTAGE)
通称──”MMR”という──
2001年5月下旬、東京。
週刊少年マガジン編集部にて、MMRのメンバー
キバヤシ、ナワヤ、タナカ、イケダ、トマルの5人が
次に取材するテーマを求めて会議をしていた。
長びく会議にナワヤがぽつりともらす。

「あ~、はやく帰って『PSO』やりたいぜー」

それを聞いてMMRのリーダー、キバヤシの目が光った。

なにっ、UFOだと?

すかさずタナカがつっこむ。

「ちがいます、キバヤシさん。
 ユーエフオーじゃなくて、ピーエスオー。
 PSOです。ナワヤさんが言ったのは
 ドリームキャストのゲームのことですよ」

「そ、そうか。ゲームのことだったのか」

「あ、『PSO』といえば最近、
 読者からの葉書やメールで送られてくる情報に
 『PSO』がよく出てくるんですよ」

トマルが手紙をMMRのメンバー全員に配った。
ナワヤがにたにた笑いながら読んでいる。

「そうそう。近況みたいな感じで
 私も始めました~なんてよく書いてあるな」

「ふーん……今流行なんだな。で、その
 『PSO』とはいったいどんなゲームなんだ?」

「あれ? キバヤシさんは『PSO』を
 知らなかったんですか? 『PSO』は
 『ファンタシースターオンライン』の略で、
 ドリームキャストのネットワーク機能を使った
 オンラインRPGなんです」

タナカは『PSO』の特集記事がある
ドリームキャスト専門誌を渡し、
『PSO』がいかに面白いかをキバヤシに説明しだした。

「……で、……ということで、『PSO』は
 家庭用初の全世界同時接続を実現したんです。
 5ヶ国語に対応して自動翻訳してくれる
 ワードセレクトという機能のおかげで
 世界中のプレイヤとコミュニケーションが
 出来る点が画期的だと好評ですね」

(全世界同時接続……)

ここを聞いてキバヤシの目が一瞬光る。

「いろいろなプレイヤとの出会いと協力プレイの
 楽しさに、発売から半年近く経過した現在も
 数多くのプレイヤがオンラインに
 明け暮れています。まさにキャッチコピーの
 ”英雄は一人じゃない”の通りですよ!」

(……英雄は一人じゃない、か……)

ガタッ

「!? どうしたキバヤシ、急に立ち上がって」

(全世界対応……英雄……ま、まさか……)

キバヤシの額に汗が浮かんできていた。

「も……もし……
 もしもオレの予想が当たっていたとしたら……
 このゲームには人類に対する恐るべき
 メッセージが隠されているのかもしれん!!


ド──────────ン

「「「「 な……何だってーっ!! 」」」」

息の合ったように驚愕する四人。
そして全員が、始まったかとも思った。
とりあえずいつも通り問いただしてみることにした。

「お……恐るべき計画……?」

「キバヤシさん、『PSO』は
 ただのオンラインRPGじゃないですか。
 それに一体どんなメッセージが
 隠されているというんですか?」

「……」

キバヤシは少し間をとって言った。

「トマル、読者の手紙では『PSO』に
 ハマったという報告が多くあったそうだが、
 その内容は賞賛ばかりだったのか?」

言われて、トマルが手元の手紙に目を通す。

「い、いえ……なかにはロスト仕様に対する
 愚痴やチータによる迷惑行為への不満も
 あったりしますが……」

「そうか……や、やはり……」

「いったいそれが何だというんだキバヤシ!
 どのゲームにだって
 不満のひとつやふたつはあるじゃないか!」

ナワヤが至極当然に言い返す。

「オレは……さっきの説明を聞いて、
 一つだけ疑問の残った点があるんだ。
 それは全世界対応という機能だ!」

キバヤシはメンバーに、
専門誌から読者評価コーナーの頁を広げて見せた。

「いいか……『PSO』は
 ネットワークRPGで全世界対応だという。
 つまり全世界の人間が遊んでいるってことだ。
 それなら……大国の指導者だって遊んでいると
 いう可能性も大きいじゃないか?


キバヤシの背後に大国指導者が
ドリキャスのコントローラを持つ姿が浮かんだ。

キバヤシはギャグで言っているのではなく、
本気でそう思って言っている。
それはメンバーも長年の付き合いで承知していて
キバヤシの妄言を黙って聞いていた。

「たしかに『PSO』は面白いゲームだろう……。
 だが、手紙や評価意見にあるように
 一般の人々でさえ、ロスト仕様や迷惑行為には
 猜疑心や不安感にさいなまされているんだ。
 ……それを大国の指導者が『PSO』から
 その悪影響をうけたらどうなる!?」

ゴゴゴゴゴゴ……と、
どこからともなく擬音が響いてきた。
メンバーは、来たか……と身構えた。

「指導者たちの心は、緊張する世界情勢の中、
 つねに敵国の核攻撃に対する恐怖心と
 「やられる前にやらねば」という
 強迫観念との間で葛藤しているんだ……」

キバヤシの背後の大国指導者は
両手で顔をうずめて苦悩している。

キバヤシには己のイメージを聞いている人の
頭の中に直接投影させる不思議な能力があるのだ。

「もしその強迫観念が『PSO』のロスト仕様や
 チート行為での被害で増幅されたら……」

ゴゴゴゴゴゴ……

「彼らはその恐れを振り払うかのように……」

「ま……まさか……」

「核のボタンに指をのばし……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「第三次世界大戦が勃発するんだよ!!」

ド──────────ン

見開きで飛び交じかうミサイルと崩壊するビルと
巨大なキノコ雲。あとドクロもある。

「バ……バカな! そんなことが現実に……」

「『PSO』によって第三次世界大戦が
 勃発するかもしれないなんて……!」

本心は笑い飛ばしたいところのナワヤたちだが、
キバヤシの仮説につきあわなければMMRとして
話にならないので必ず驚かなければならないのだ。
今回もうつむいて絶望感に打ちひしがれるフリを
する四人。その姿を見てキバヤシはまた言った。

「『PSO』に関心がある手紙が多くなったのも、
 おそらく若いユーザの感受性が
 無意識の内に『PSO』からの危機を
 感じていたからじゃないだろうか……」

「なるほど……一理あるな」

ぜんぜん一理ない仮説にうなずくナワヤ。
嫌な予感がしつつもタナカが聞いた。

「それじゃ、今回は……」

キバヤシはうなずいた。

「『PSO』に隠されたメッセージを
 徹底究明してみよう! MMR出動だ!!」

リーダーからの決定を聞いて、
メンバーは演技でなく本気でうなだれた。
キバヤシの思考は
いつも人類を破滅へ導く結論が先行しているので
今回、自分たちの大好きな『PSO』が悪いように
扱われないかと不安を感じたからだ。

そこでナワヤが一計を案じた。

「なあキバヤシ、お前はまだ『PSO』を
 未体験だったよな。調査にはまず実際にこの
 オンラインRPGをプレイしてみたらどうだ?」

この案には、いいプレイヤに会えば
キバヤシも流石に自分の考えすぎだと事に
気づき、調査を中止するかもしれないという願いがある。

「そうか……それがいいな。よし、そうしよう!
 ……オレはまたてっきりノストラダムスの
 予言詩にヒントが隠されているのかと思って
 未解読詩の解読からしようと言うところだったよ


ホッとする一同であった。







さっそく編集部にあるドリキャスを
使って実際に体験させてみることにした。

ドリキャスのコントローラを握るキバヤシを
他の四人が取り囲む。初心者のキバヤシに、
『PSO』の素晴らしい部分から先に触れてみて
くれるよう、メンバーがアドバイスして
安全な方へと誘導するつもりなのだ。

キバヤシの分身、KIBAYASHIを
キャラクリエイションで作り終えると早速
オンラインへ繋ぐ。だが、接続中に表示される
時の、光が集まる画面を見たキバヤシが叫んだ。

「こ、これは……UFOの光?」

机の下に潜りこんでふるえるキバヤシを見て
メンバーは忍び笑いをした。
ナワヤだけはもろに笑い転げていたが。
顔を赤くして席に戻るキバヤシ。

「よし、今日はこれで引き上げだ!
 一度オフラインで準備を整えてから出直そう」

「「「「 な、なんだってーっ! 」」」」

あまりにも早い見極めに
メンバーは条件反射で叫んだ。
オンライン体験の醍醐味を知らないままでは
プレイさせた意味がないので、
続けてくれるように必死に説得した。
キバヤシもすぐに思い直して続けることにした。

Ship select画面でキバヤシは質問した。

「なんだ? この下のDownloadというのは?」

「ダウンロードクエストですね。このデータを
 ビジュアルメモリにダウンロードしておけば
 後でオフラインで追加シナリオが楽しめるよう
 になっているんです。これも通信機能を使った
 楽しみのひとつです。レア武器が入手できる
 イベントが隠されている場合もありますよ」

タナカの説明を聞いて
すぐにダウンロードを決意、実行するキバヤシ。
余計な手間を食ってまたSHIP選択画面に戻る。

「むむ……たくさんSHIPがあるなあ。
 19ー9ー9に行きたいが、
 SHIPは9までか。残念」

SHIP19はあるが、そこは外国SHIP。
外国人とのコミュニケーションはまだ早いと
判断したメンバーはアイコンタクトをとって
キバヤシに勘違いさせたまま黙っていることにした。

「キバヤシさん人が多いSHIP1にしましょう」

「わかった」

そしてBLOCK9を選び転送されるKIBAYASHI。
ようやくビジュアルロビーに到着。

いくつもの[こんばんはー]という吹き出しが
KIBAYASHIに向かって投げかけられた。
ここは常識的にキバヤシも挨拶を交わす。

「なるほど……これがビジュアルロビーか。
 こうやってチャットをして一緒に冒険に行く
 仲間を募るんだな……面白そうじゃないか!」

キバヤシの好意的な意見に
顔をほころばせるメンバー。
そしてキバヤシは自分から話題を振ってみた。

[ オレは『PSO』が人類へ警告を発していると
 思えてならない。そんなオレと一緒に
 チームを組んで徹底究明しないか?  ]

すかさずタナカがキーボードをひったくり、
[なぁ~んてネじょうだん♪]とフォローを入れ、
ロビーには[(^^)]や[w]の吹き出しが出て、
kIBAYASHIの発言はネタとして
なんとかやり過ごすことに成功した。

「キバヤシさん、いきなりあんな事言ったん
 じゃあ意味不明で引いてしまいますよ」

「そ、そうか……。オレは本気なんだがな

だがこのKIBAYASHIを
面白いキャラとしてみたのか、物好きな人が
一人、一緒にチームに入ってくれるという。
そのかわいいフォニュエールを見てナワヤが言った。

「おっとキバヤシ、先に言っておくが
 相手のプレイヤに対して、本人の性別や年齢を
 聞くのは控えた方がいいぜ。女性と知った途端
 ひどいナンパをする奴がいたりするからな!」

別にキバヤシはそこまで無神経ではないのだが、
ナワヤは単にPSO先輩顔をしたいだけで忠告を
したのであった。というのも、じつは
ナワヤ当人がキャラとプレイヤを混同して
ひどい体験をした経験があるからだ。
いろいろレアを貢ぎまくっていた相手が男性と
知って一時は人間不信にまで陥ったナワヤだが、
ゲームと割り切った今では、嫌がらせにならない
微妙なネットナンパのテクに磨きをかけている。

どうあれ、キバヤシはチームを作り、
一緒したフォニュエールとの会話にも
キバヤシにしては別段怪しい展開もなく
普通に冒険をくりだして森を攻略していった。
ただキバヤシにはずっとひとつ気にかかることが
あり、メンバーに聞いてみることにした。

「なあタナカ……、このフォニュエールは
 よく[w]を出すがこれは何かの打ち間違いか?
 [w]はそんなによく打ち間違うものなのかな」

「あ、いえキバヤシさん、これは笑っていること
 をソフトに表現しているものなんです。
 [w]の一文字だと打ち込むのが早く済むし、
 絵的に微笑のイメージがあるので使用している
 人は多いです。好意的に受け止めて下さいね」

「そ、そうか……。あやうく本人に問い正す
 ところだったよ。お前たちがいてよかった」

キバヤシがまともにプレイしているのを見て、
メンバーはオンライン体験作戦が成功し始めて
いることを肌で感じていた。

フォニュエールは初心者のKIBAYASHIを
うまくサポートしてくれている。オンラインで
このような親切な人ばかりに会ってくれれば、
キバヤシも『PSO』に何ら怪しい要素は無いと
気づき、『PSO』に隠されたメッセージを
徹底究明しようというあほらしい調査は
中止してくれるかもしれない──とメンバーが
思いはじめた時、新たな参加者が入ってきた。
フォニュエールが呼んだ友達らしい。
この参加者は語尾に[~ござる]を付けてくる
ロールプレイヤであった。

「ははは、みろタナカ、この人はいつも
 ござる言葉で話してくるぞ。まるで自分を
 武士と思い込んでいるみたいだ。『PSO』には
 いろんな人がいるっていうのはこういう事か」

思い込みの激しさでは前後におちないキバヤシ
だが『PSO』の魅力に気づき始めた彼の気分を
害してはならない。またタナカが誘導説明した。

「キバヤシさん、あれは”なりきり”とも
 いわれるロールプレイの一種です。
 自分とは違ったキャラを演じることで、
 いつもとは違った世界を自分で構築できるのが
 人気になっています。これこそ
 ネットRPGの醍醐味だと僕は思います」

「へぇー、なりきりかあ……(ハッ)」

言いかけたところで
キバヤシが突然顔を険しくした。
まさかまた例の病気が発病したのかと、
メンバーも顔を険しくした。

「ど、どうしたんですキバヤシさん……」

「い、いや何でもない……」

キバヤシは気をとり直してプレイを続行した。
しかしメンバーはキバヤシがいつまた
妄想を語り始めるんじゃないかと不安顔だ。

チームにまた新たな参加者が入ってきた。
[Hi]と文字がついた笑顔のシンボルチャットの挨拶。
そして英語。外国人だ。

「う、外人か! イケダ、通訳をたのむ!」

イケダは海外生活を長くしたことがあり、
英語が堪能なのだ。

「え、ええ。でもその前にキバヤシさん、
 外人と言うのはやめた方がいいですよ」

イケダの話によると、外人の外には
人間ではないという意味があり、識者には
侮蔑的表現と受け止められることがあるので、
たとえ外人の意味が現在では大勢が
外国人の意と変化していたとしても、
外国人と表現していた方が無難だ──と教えた。
またひとつ勉強になったキバヤシであった。

「キバヤシさん、こういう時こそ
 ワードセレクトですよ!」

そしてキバヤシは、
簡単な受け答えはワードセレクトで対応し、
複雑な会話文の場合はイケダに任せた。




外国人を交えたKIBAYASHIのチームは
森のボスを倒し終えて解散となった。
キバヤシの初『PSO』体験は
問題なく終わったかに見える。

「どーよキバヤシ? 『PSO』がどんなに
 面白いゲームかこれでわかったろう?」

「…………」

ナワヤの問いに、妙な間をあけてからキバヤシは答えた。

「……ああ。モニタの向こうにいる生の人間との
 協力プレイには、いままでのRPGにはなかった
 新鮮な楽しさがあった。お前たちが
 ハマる理由もわかるような気がするよ」

笑顔で答えるキバヤシを見て、メンバーは
作戦が成功したと思いまたナワヤが聞いた。

「だろう! ……で、どうだ? これでもまだ
 お前さんはこの素晴らしい『PSO』に、
 人類に対する恐るべきメッセージが
 隠されているなんて思っているのか?」

「……」

また間をとってキバヤシは答えた。

「──いやそれはまだ何とも……ただ……」

考え込み始めたキバヤシを見て
危険を察知したナワヤが叫んだ。

「キバヤシ、もういいんだよ。もともとゲームを
 テーマにすることに無理があったんだよ!
 『PSO』が普通のネットRPGだってことが
 お前にもわかっただろう。
 よしこれで今回の調査は終了だ!!」

パンと手を打ち、勝手に仕切るナワヤ。
キバヤシは黙ったままなので
このまま調査終了という形になった。

今回はメンバーの誘導によって、奇跡的に
キバヤシの妄想まで展開することを
回避することに成功した……かに見えた。






それから三日後
編集部の一角で雑談をしているナワヤたち。

「キバヤシさんはあれからどっぷり
 『PSO』漬けですね。時間があれば
 プレイしている姿をよく見かけますよ」

「キバヤシも人の子だったんだな。まあ、
 『PSO』の前では誰でもああなるって。
 ハハハ!」

「でも……プレイするキバヤシさんの顔は
 ちっとも楽しそうではなかったような……。
 逆にいつも深刻な表情でプレイしていて、
 時折、まさか、という言葉を洩らしたのを
 聞いたことがあります……」

深刻な表情にまさかという言葉を聞いたという
タナカの報告にメンバーの空気が一瞬で張り詰めた。

「あ? なんだそれ? もしかして
 それがキバヤシのロールプレイかな……」

前兆が起こりつつあることを感じ、なんとか
穏やかな方へと洩っていく発言をするナワヤ。
そこへキバヤシもやってきた。

「よ……ようキバヤシ! おまえここんとこ
 『PSO』にハマっているそうじゃないか。
 どうだ? 今度、
 メンバーと一緒に潜ってみないか?」

わかったぞ……

わかった、と切り出す時のキバヤシは
もう妄想準備体制にあることを意味している。
逃れられないとわかりつつ、
それでもナワヤは最後の抵抗を試みた。

「! そ、そうかわかったのか。よかったな!
 ……で、いつもぐろうか?」

「わかったんだよナワヤ! やはり『PSO』
 には人類に対して恐るべきメッセージが
 隠されていたんだよ!!」

ド──────────ン

すさまじい集中線がキバヤシを囲む。

「「「「 な……何だってーっ! 」」」」

条件反射で叫ばすにはいられない四人。
ついに四人が恐れていた事態へ展開しだした。

「どういうことなんです!?」

聞きたくもない妄言を問いただすタナカ。
キバヤシの妄想強制力が四人を操るのだ。

「オレは『PSO』の楽しさの秘密に隠された
 メッセージがどうも気になって……
 あの後も調べ続けていたんだ」

「い、いったい何が
 わかったというんだキバヤシ!」

「……」

ナワヤの問いにキバヤシは勿体つけて間をとると
いきなり別の話題を振った。

「お前たち、『PSOver.2』が
 近々発売予定であることは知っているな」

「あ、ああ。賛否両論だったロスト仕様の改善や
 新機能などを追加した新作ソフトだろう」

「そう。オレはこの『PSOver.2』が
 発売されると知って、ネットRPGの水面下に
 隠されたある問題に気づいたんだ!」

ゴゴゴゴゴゴ……

「……なあナワヤ、『PSOver.2』発売後に抱え
 る最も危機感のある問題はなんだと思う?」

「……そりゃあ、ろ、ロストだろう」

「いや……違うな……」

「初心者と経験者による知識差のトラブルですか?」

首をふるキバヤシ。

「チート氾濫によるレア価値破壊ですか?」

「いいや、それでもない」

「一体なんなんだ?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「現在『PSOver.2』に向けての
 深刻な最大の危機的問題は──
 それは爆発的なユーザの増加だよ!!」

ド──────────ン

「ユ、ユーザの増加が……」

「これを見てみろ」

キバヤシが懐からグラフが差し出し、
それをメンバーの前にひろげた。

「現在のPSO人口は全世界で約20万人……。
 仮にこのままの増加率で
 今後のPSO人口を試算すると
 2005年には200万人……
 2010年には2000万人……
 2050年には2億人に達する見込みだ……


どう考えても無理のある試算を堂々と語るキバヤシ。

「こ、これほどまでに急激な増加が……!」

「そうだ。仮にこのまま人口が増え続けていけば
 22世紀にはサーバも不足してくる。
 当然、ネット環境も混雑してくるだろう!
 それだけじゃない……。
 こうした状況が社会不安を増大させ……、
 ひいては国際政治の不安定にもつながるんだ!」

キバヤシの背後には、店中で『PSOver.2』を
求めて手を差し伸べる大勢の人々や、オンライン
に接続できずに苦しい顔をしているユーザと、
国会で『PSOver.2』の取扱に関する決議を
審査中の政治家の方々の姿が浮かび上がった。
なぜかドクロもある。

「さらにその裏には、我々を知らずのうちに
 慢性半廃人状態にまで陥れられてしまう
 恐ろしい計画があったんだよ!!


「「「「 な……なんだってーっ!! 」」」」

「その状態を別名、”社壊人”という!!」

バァ──────────ン

キバヤシの背後には、
虚ろな目をしたユーザの姿と
分断されたDNAの二重螺旋とかが加わった。
あとドクロも。

「その”社壊人”というのは
 いったい何なんだ? キバヤシ!」

「それにはまず、これを見てくれ」

キバヤシは紙の束を皆に配った。
それは『PSO』公式掲示板からの書き込みを
プリントアウトしたものだった。
書き込み内容は以下の四つに分けられている。

・『PSO』に夢中で睡眠不足となった
・『PSO』が気になって学校で勉強に手がつかない
・『PSO』が気になって仕事に集中できない
・『PSO』のプレイ時間を優先した主婦が
 家事・育児をおろそかにするようになった

目を通して驚くタナカたち。

「こ、これは……熱中度が過ぎて実生活に
 支障をきたした人たちばかりじゃないですか。
 これが……”社壊人”なんですか!?」

コクッとうなずくキバヤシ。

「他にも”社灰人”や””社潰人”、”捨会人”
 ”斜会人”などいろいろな呼称がある。
 ”逸般人”や”主腐”なんてのもある。
 いずれも社会不適合者の意味を含んだ、
 ユーモアある言葉遊びだ。
 だが……中にはもはや遊びの範疇の被害では
 収まらなくなっている者もいる……」

言われてズキリとするメンバー。
彼らは『PSO』の情報を求めようと、
仕事中にも関わらず仕事場のパソコンから
掲示板を覗いたりする習慣があるからだ。

「いくら『PSO』が面白いからって、
 実生活に害を及ぼすまで熱中するものなのだ
 ろうか? しかも全国に同じ症状がこうまで
 大量発生するのはおかしいと思わないか?」

「た、たしかに……。
 これではほとんど麻薬ですね……」

「麻薬か……そう、タナカのいう通りだ。
 そしてこうは考えられないだろうか……。
 ドリキャスが生産中止された裏の原因が、
 じつは『PSO』撲滅を狙った
 政府の陰謀だったと!


「そ、そんな! ドリキャスの生産中止が
 政府による『PSO』撲滅計画だったなんて!」

「いや有り得ない話じゃない……!
 社壊人のような麻薬的中毒症状を起こす程の
 『PSO』の危険性に気づいた国家が、
 一般人の手から遠ざけるために仕組んだ策
 だったとしても不思議じゃあないだろう」

十分不思議な妄想を展開させるキバヤシ。
ただいま絶好調である。

「そ、それじゃもし『PSOver.2』が発売されて
 ユーザが増えれば……」

「ウム。それだけ社壊人も増えるということに
 なるな。これ以上社壊人が増えたならば……。
 寝不足からくる思考停止……
 失業率の増大に家庭不和……
 農作物が不作し食料危機に……
 環境破壊や凶悪事件の多発……
 政財界は分裂、大再編……
 日本の政治は真っ二つになり大混乱……
 世界的規模で経済バランスが崩れ……
 特に日本の場合は大打撃を与え、
 再建不可能となるほどの景気大破壊の発生……
 人類破滅の危険は十分あるんだよッ!!」

キバヤシの背後では火山が噴火したり、
スーパーモスキートが飛んだり凶風が吹いたり、
こわい形相をしたラマ僧がいたり、
惑星の配列が十字の形になって
グランドクロスを形成したりしている。ドクロ。

「な……なんてこった……」

「もし……すでに兆候が始まっているとしたら
 ……もう手遅れなのかもしれない……」

シーンと静寂に包まれる編集部。
絶望感と憤りで握った拳をふるわせるナワヤたち。

「じゃ、じゃあどうすりゃいいんだ……。
 このまま為す術もなく恐怖におののきながら
 破滅を見守っていろとでもいうのかー!」

「いや、悲観するのはまだ早いぞナワヤ……。
 社壊人化を防ぐ手だては必ずあるはずだ!」

「キバヤシ!」

「オレはこれからそのヒントを与えてくれる人物
 に会いに行く! アポはすでにとってある!
 今から取材に行くぞッ!!」

さんざん不安要素を並べてメンバーを
絶望へ叩き落として、一転の救済発言。
これがMMR隊長キバヤシの人心掌握術だ。






都内某所
いまMMRメンバーの前に一人の男性がいる。
その男性が口を開いた。

「ようこそ。『PSO』を開発した
 (株)ソニックチーム社長の中裕司です」

「MMRのキバヤシです。『PSO』は
 我らマガジン編集部でも大人気ですよ」

「ありがとうございます」

キバヤシがアポをとった人物は大物だった。
いくらパロディとはいえ、
実在の関係者を作中に登場させちゃったりして
この書き込みは削除されないだろうか……?

「──ということで我々の仮説では、
 『PSO』に熱中するあまりに社壊人が
 多く出てくるのじゃないかと思うのです!」

いきなり本題をきりだすキバヤシ。

「な、なるほど……社壊人ですか。
 そんな報告があったのですか……」

ウーン、と唸る中社長。
どう言ってお引き取り願おうか考えているのだろうか。

「ハマってくれるのは我々としても嬉しいこと
 ですが……でもまあ社会人ともなると忙しくて
 ゲームを遊ぶ時間がありませんからね。
 特に最近の若い人の場合は夜更かしをしたり
 生活リズムが不規則になりがちですから……
 支障をきたさない程度に節度をとって
 遊んでほしいですね」

模範回答な中社長。続けてタナカも質問をする。

「ではその近い将来、ユーザの増加によって
 社会情勢に壊滅的な危機を迎えるてことはない
 んでしょうか? 人類の命運を左右する程の」

「ハハハハ! これまた大袈裟な話ですね!」

中社長は明るく笑って否定した。

「たしかにテレホタイム、特に週末には
 いまだに接続しにくい状況が続いてますし、
 これからユーザが増えればその分オンラインの
 混雑が懸念されますでしょう……けど、
 僕らもサーバを増やすなり(中略)
 いろいろと検討を重ねてますので(後略)」

中社長の建設的な説明を聞いて安堵するメンバー。
キバヤシの煽りで不安に駆られていたがそれも
冷静になりにつれ、だいぶ薄らいできている。
キバヤシの洗脳が解けてきたのだ。
そのキバヤシは”週末”を”終末”と
聞き間違えて一瞬険しい顔になったりしていた。
次はトマルが質問した。

「現在の『PSO』では、不正改造によるレアが
 横行していてまた一部には迷惑行為を繰り返す
 ユーザによって大勢の被害の報告も出てます。
 こうした脅威が『PSO』本来の楽しみを
 奪ってしまっていると思うんですが」

「ええ……それについては我々としても
 残念に思います。あまり繰り返すようですと
 利用停止という措置をすることにしているんで
 すが、やはり心が痛みますね(中略)
 我々も日夜チート対処に取り組んでいます!
 応援してくれるユーザのためにも不安のない、
 より良い環境を提供することを約束しますよ!」

またも希望のある説明にワッと華やぐメンバー。
しかしキバヤシだけは深刻な面構えのままだ。
次はイケダがワードセレクト機能について言及した。

「5ヵ国語に自動翻訳してくれるこの
 ワードセレクト機能を使って、
 外国人との交流できたことに感動した人が
 続出しています。なかには英語の勉強を
 し直し始めたという方もいるくらいで……。
 これっていままでにない効果ですよね!」

「(全略)」










中社長との取材は次第に『PSO』再評価と移り、
すっかり破滅への心配がなくなったメンバーは
『PSOver.2』への期待を膨らまして終了した。

だがキバヤシだけは終始険しい顔のまま説明を
黙って聞いていて、時折、中社長のうなじに
アザはないかと回り込んで不審な行動をとったりしてたが。



編集部
中社長に会えた感激に賑わうメンバー。

「キバヤシさんの予想した破滅はないって
 わかった事ですし、今回はこれで一件落着!
 めでたしめでたしってトコですかね!」

「ああ、これで安心して『PSO』を遊べるって
 もんだぜ……ってそういやキバヤシの奴は?」

「なにか調べものがあるって資料室へ……。
 『PSO』のプレイ画面をビデオに録画したもの
 をコマ送りで再生して見ていましたね……」

「……ったく、あいつは
 どこまで疑えば気が済むのかねえ」



その夜、
トマルが編集部のドリキャスで『PSO』を
やろうとした時、後ろをキバヤシが通りかかった。

「トマル、そのドリキャスどうしたんだ?」

トマルのドリキャスは底にペットボトルのフタを
四つ、足のように挟んで設置して持ち上がっている。

「あ、キバヤシさん。いえね、こうすれば少しは
 風通しが良くなって熱暴走を防げられるかなぁ
 と思って隙間を空けてみたんです。
 実際効果があるかはわかんないんですけど、
 少しでも対策になればと思って。えへへへ」

「熱暴走対策か……。
 そいつはなかなかいい考えかも……(ハッ)
 熱……!? 暴走……!?」

言ってキバヤシは考え込み始めた。
ググッと拳を強く握る。

(ま……まてよ……すると……!)

握り拳がさらにグググググッと強くなる。
そして目がギラッと光った。

「(そ、そうか……そういうことだったのか!)
 トマル! MMRのメンバーを
 至急集合させろ! 最後の謎解きだ!!」

「え……あ、ハ、ハイ!!」

向こうの世界に行っているキバヤシに
逆らってはいけないことを熟知しているトマルは
すぐにナワヤたちを呼びに走った。







編集部にあるMMRメンバー専用ソファーに
ナワヤ、タナカ、イケダ、トマルの四人は座り、
一人立っているキバヤシを見上げている。

「これで全員そろったな」

「キバヤシ、
 『PSO』のことなら問題なかったはずだぜ」

「いや、やはり『PSO』は
 人類の破局を示唆していた……。オレたちは
 重大な事を見落としていたんだよ!」

「!! どういうことです!!」

「『PSO』には人類への警告とともに新たな
 とんでもない事態が進行しているんだ……」

ゴゴゴゴゴゴ……

「とんでもない事態……?
 何なんですかそれは! キバヤシさん!」

「……」

絶妙なタイミングで間をとるキバヤシ。

「…………」

まだまだ引きを入れる。
もはや名人芸の領域に達している。

「”チート”だよ……!」

「え……チ、チートが……ですか」

「待てよキバヤシ! チート問題はたしかに
 『PSO』における最大の悩みの種だが、
 悪質な被害を及ぼすユーザにはオンラインの
 利用停止をするとソニックチームが
 警告していたじゃないか!」

ナワヤの反論にゆっくり首をふるキバヤシ。

「そう、表面上ではそう見えるだろうな……」

「な……なに!」

「なぁお前たち、まずチートというのが
 どのように発祥したかを知っているか……?」

「チートの発祥……?
 い、いえ。詳しくは知りませんが、おそらく
 外国のユーザから端を発したのえは?
 向こうはそういう技術の最先端ですから……」

「外国……か。他のみんなもそう思うか?」

振られて困惑するメンバー。
作者だってあまり詳しいわけじゃないし。

「オレには、たとえ技術力があるからといって、
 不正改造というものがそうやすやすと可能なの
 だろうかとどうもそこがひっかかるんだ……」

「しかしキバヤシ! 現にこうして
 チータがはびこっているじゃないか!
 チート自体はそう珍しい事じゃなくなったぞ」

「ああ……しかしオレは、トマルがドリキャスの
 熱暴走対策を見ていて、もうひとつ別の仮説を
 思いついたんだ。その仮説が正しければ……、
 他の疑問もすべて氷解する!」

思いつきかよ、と心の中でツッコミを入れるメンバー。

「仮説……! 一体どんな……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「もし……チータがデータを改造するさいに……
 強力な”アドバイザ”がいたとすれば……」

「アドバイザ……?」

「そう! ……例えば人類よりもっと
 高度なゲーム開発技術をもつ者……その者が
 チートに加担していたとするなら……」

「……人類より高度……(ハッ)
 ま……まさか……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「 地球外知的生命体!! 」

バァ────────────ン

キバヤシの頭上にグレイ登場。
宇宙人といえばグレイなのだ。

「まさか……! 地球外知的生命体が
 チートに関与しているというのかー!」

「遠い宇宙から往来するほどの超絶した技術を
 持つグレイならば、『PSO』のデータを
 改造することもたやすいはずだ……!」

「し……しかしもしそれが真実だとしても
 ……理由がないじゃないか!
 一体何のために異星人が不正改造を
 手助けしなければならないんだ!」

「理由は……ある!」

「「「「 !! 」」」」

「こうは考えられないだろうか……。
 はるかな宇宙に存在する地球外知的生命体……
 それは現在の地球よりも進んだ高度な文明を
 持っていた。しかし彼らは自らのゲーム文明
 だけでは満足せず、この地球にまで
 その興味の手を伸ばしてきた……と」

「グ……グレイが……『PSO』を遊ぶために!」

「この新聞を見てみろ!」

「こ……これは!!」

キバヤシが差し出したその新聞にはUFOと思われ
る謎の光る飛行物体の目撃写真が載っていた。

「そう……その記事のUFO目撃の日付が
 2000年12月21日。
 そして同じく『PSO』の発売日も12月21日!
 すなわち『PSO』を求めて
 UFOも飛来していたんだよ────!!


ド──────────ン
ド──────────ン
ド──────────ン
ド──────────ン
ド──────────ン

「し……しかし、グレイは地球人じゃない!
 いくら『PSO』を求めても異星人である奴らに
 ドリキャスのネットは利用できないのでは?」

「いい質問だタナカ! たしかにグレイでは
 オンラインを利用する原則であるユーザ登録も
 ままならないだろう……だがッ!!」

揉み手をしながら生き生きと
妄想のマシンガントークを放つキバヤシ。
もう誰も止めることはできない。

グレイのもつオーバーテクノロジを地球人に
 教えるかわりに……個人のユーザ登録が
 グレイに渡っているのだとしたらッ……!


キバヤシの隣では、素っ裸のグレイと
スーツ姿の外国人が握手をしていた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「そ、そんな……! ハッ! まさか……それで
 外国でチートが早く発生した理由にも……」

「ああ……十分考えられる!!」

「グレイが……『PSO』を……。
 し、しかしキバヤシさん! 何でまたグレイは
 『PSO』に興味を持ったのでしょう?
 ネットゲームならパソコンで
 他にもいろいろあるでしょう……」

「おそらくは……ワードセレクトに
 目をつけたんだと思う」

「ワードセレクトに……な、なぜです!?」

「地球人が『PSO』という一本のソフトによって
 一堂に会し、なおかつワードセレクトの
 自動翻訳で言葉の壁がなくなったんだ!
 グレイは『PSO』ユーザとまぎれることで、
 生活環境や個人の趣味シ好など、
 地球人のあらゆる意識調査のデータを
 入手するのに『PSO』は適しているんだよ!」

「……な、なるほど! そんな理由が……」

「ん、待てよ……すると……キバヤシは
 グレイがもう『PSO』ユーザとしてオンライン
 上に存在しているとでもいうのかーッ!?」

「ああ! 外人という言葉が何よりの証拠だ!」

「え? キ、キバヤシさん、外国人が?」

「ちがう! 外人の方だ!
 イケダ! お前が教えてくれたじゃないか!
 ”外人は外から来た人間ではないもの”という
 意味だと!」

「あっ、あ……ああぁぁぁぁぁ~っ!!」

ガァ──────────ン

「”外人は蔑称になるからきちんと外国人または
 外国の方と言おう”などと教わったのだが……
 全ては逆だったんだよッ!」

「そんな……外人の意味が真実だったなんて」

「おそらく……オレのように真実に気づいた人や
 グレイとの取引に危機感を覚えた外国人が、
 ワードセレクトでグレイに気づかれないよう、
 外人という言葉を選んで秘かに警告を
 発していたんじゃないだろうか……」

「そ、そうだったのか……」

「だがッ! グレイは外人の意味に気づいた!」

「!!」

「このままでは自分たちの存在が察知されて
 しまう……そう考えた奴らは先手をうって、
 ある”印象操作”を施したんだよッ!」

 な……なんだってェ──────ッ!! 」

「キバヤシさん! ま、まさかそれは一連の
 ”外国人呼称運動”のことですか?」

「そうだ……おそらく最初に言いだした奴が……
 グレイである可能性が高い……!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

「……グレイが『PSO』ユーザとして
 存在するなら……僕らも知らないうちに
 グレイと接触していたのかもしれませんね」

「キバヤシ! 奴らの正体を
 見分ける方法はないのか?」

「ひとつだけ……ある!」

「!! なんだそれは?」

キバヤシは、
『たけし・所のWA風が来た』で山寺宏一がするように
両手の掌を前に広げて親指の先端をくっつけた。

wだよ

「w……?」

「ああ、なんでもこれは”笑い”の略という
 ことだが……しかし、これはグレイが好む
 宇宙語での挨拶でもあるらしいんだ!」

「!! wが宇宙語の挨拶だってーッ!」

「……これもオレの予想でしかないんだが、
 グレイ同士での確認の挨拶に”w”を使用して
 いたところ、これを偶然日本人が目撃し、
 宇宙語と知らないで面白がって使っていったら
 広まっていったんじゃないかと思うんだ……」

「では、今それが”笑い”という手軽な
 意志表示へと認識が変わっているのは……」

「それも奴らの情報操作ではないだろうか……。
 おそらく最初に言いだした奴が……
 グレイである可能性が高い……!」

「じゃあ、”w”を相づちのような笑い方に
 使用せず、挨拶として使う奴はグレイの
 可能性が高いとキバヤシさんは言うんですね」

「ああ……だが、『PSO』ではグレイだと
 実証できることは不可能だとオレは思う。
 ”これはロールプレイだ”の一言で
 言い逃れることもできるからな!」

「ろ、ロールプレイか……。
 そう言われては手も足も出ないわな」

「オレはロールプレイという遊び方も
 奴らが言いだしたのではないかと思う……。
 まったく……奴らの入念に重ねた
 自衛手段の緻密さにはあきれ返るよ……」

メンバーはもちろん、読者も、『PSO』の
あらゆる事象をこうまでグレイに結びつけてしまう
キバヤシの論法にあきれ返っていると思うが。

「オレはこれまでの調べで……今ひとつの
 結論に達しようとしている……」

キバヤシが締めにかかった。

「グレイがいつか迎えるであろう我々地球人との
 現実での接触……。だがグレイは慎重を期し、
 チートによる『PSO』潜入によって、
 地球人が友好関係を結ぶに値するかどうかを
 試すための壮大な秘密計画を開始した……。
 これが『PSO』に隠された人類へのメッセージ
 だったのではないだろうか……」

「そんなことが……グレイが……
 『PSO』で人類を観察していたなんて……」

「キ、キバヤシさん、それじゃあ我々は……
 グレイに対してどう対応すればいいんです?」

「うん……グレイが我々を
 友好的な人種だと判断するか、それとも
 自分勝手な生物だと判断するかはわからない。
 ただひとついえることは……」

「「「「 …… 」」」」

「我々はいままでそうしてきたように、
 初心者には親切にサポートをして
 経験者とは理解ある協力プレイを心がけていれ
 ばいつかグレイとのコンタクトを迎えた時にも
 最悪の事態だけは回避できるはずだ……」

「そ、そうなのか……」

「そうだ。中社長の言葉を思い出せ……!
 睡眠時間をきちんととって実生活には
 影響を及ぼさないぞという強い意志を持ち、
 ロストの絶望に打ち勝ち、
 チートの誘惑に負けない強い魂をもった
 ユーザを心がけろと……」

はて中社長はそこまで言ってたかな、と
疑問があがるも、キバヤシの妄想も終わりに
近づいているので邪魔はしなかった。

あるいは政府がドリキャス生産中止の
 凍結を解き、再生産の目処がたったならば、
 若い新ユーザが増え、その中に……


「ドリキャスの再生産か……むずかしいな」

「あとは信じるしかない……。
 これから増えるであろうユーザとの……」


『PSOver.2』発売日まで……あと7日──



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