月別アーカイブ: 2003年5月

幻灯華

静かにゆれる電車の中で
おばさん達が笑い
酔っ払いがウトウトし
カップルは語らう

ドアが開くたびに
顔ぶれは変わり
扇風機の上の電灯が
チカチカと瞬いた

形態から目をそらすし
ふと足元を見ると
黄色く照らされた床に
安全ピンがひとつ

駅に着くたびに
人に踏まれ、床を踊る
白い布でそっとすくい
私は席を後にした

香り

懐かしく思えるほど
穏やかに触れる
微かに感じるそれに
今はただ、目を細めた

校庭を走った後の
蜂蜜の様にむせて
時計はぎこちなく
針をゆっくりと進めた

また、春に

春、麗らかな日
ゆるやかな水辺に手をひたす
かつては熱くたぎり
湯気が立ち込め 沸いていた

葉が落ち 雪が溶け 感じるのは
僅かなぬくもり
指に絡みつくそれも
夏を迎える私には冷たさが心地よい